相続が発生した場合、どれぐらいの割合で遺産が相続することになるのかを確認しなければならない。
実は相続割合は法律で決まっており、なかなか相続の割合が決まらなかった場合は「法廷相続分」という割合が優先して使われるようになっている。
今回はそんな相続割合の法定相続分について具体例を交えながら紹介していく。
特殊なケースの決め方なども解説しているので、遺産分割に迷っている方はぜひご覧いただきたい。
法定相続分とは
遺産相続ではどれくらい相続するかの基準を理解しておく必要がある。
法定相続分は「どれぐらい遺産がもらえるのか」が法律で決められている遺産の取り分を指している。
ただあくまでも基準だ。話し合いによって全員の合意が得られれば、この取り分で必ずしも分割するわけではない。
法定相続人と法定相続分との違い
遺産の取り分の目安なのに対して、法定相続人は相続順位に従って相続する権利を有した人のことを指す。
この法定相続人数の上下で相続税が課税されるかどうかも変わってくる。
自分が受け取る基準を計算する際には、必ず法定相続人が何人いるかの確認を忘れないようにしよう。
ちなみにこの法定相続人にあたるのは、配偶者や子供、両親、兄弟などが挙げられる。
法定相続人に関しては「相続税の基礎控除はいくら?自分が申告対象か一目で分かる一覧表付き!」で紹介している。
使うタイミング
相続税を計算するタイミングで使用する。
自分の納付金額は、目安の取り分で割って相続税率をかければ相続金額が決まっていく。
そのため相続税を正しく計算したい時には活用しなければならない。
ちなみに税率については「相続税の税率早見表!贈与税とどちらがお得?計算方法を一挙解説【2022年最新版】」で解説している。
相続割合の決め方は3パターン
相続割合を決める方法には大きく分けて3種類ある。
- 遺言
- 遺産分割協議
- 法定相続分で割る
相続において重要なのは遺言の有無だ。
故人の財産の相続に関して故人の意向が優先されるべきであるため、遺言の有無によって進め方も変わってくる。
遺言があれば、その内容を優先して進めていくことになる。
しかし遺言がなかったり、遺言に納得がいかなかったりする場合は遺産分割協議(話し合い)が開催される。
話し合いで決まらなければ、目安の法定相続分でシンプルに決めるケースも出てくる。
ただし遺言は相続人全員が合意すれば効力を失うため、必ずしも絶対というわけではない。
結果的には、後述する進め方に従って全員が納得できる取り分を決めることになる。
- 「配偶者へ全財産渡す」と遺言 → 配偶者のみもらう
- 「配偶者へ全財産渡す」と遺言、遺産分割協議で半分ずつ相続することにした → 2人とももらう
あくまで最終決定は話し合いがメインとなる。
相続割合決定の進め方
相続割合を決定する進め方としては大まかに以下の4つの流れに分けられる。
- 遺言書があるなら従う
- 遺言書がないor従いたくないなら分割協議
- まとまらなければ法定相続分
- 最終手段は調停や審判
進め方にルールはないので、状況によっては4ステップある中の1ステップ目だけで終わることも少なくは無い。
親族の合意状況などでも変わってくるので、その点は留意しながら確認していただきたい。
遺言書があるなら従う
最初に遺言書の有無を確認しておく。
もし遺言書があった場合は、遺言書の内容を優先して割合を決定していくことになる。
ただし遺言書があったとしても相続人全員の合意で取り分を変更できるので、遺言書の内容が絶対ではない。
また明らかに他の法定相続人が不利益になるような遺言書が残されていた場合、最低限遺産を相続できる遺留分を請求できる。
遺留分について詳しくは「相続で知っておくべき遺留分とは?対象範囲・計算例・法定相続分との違いをわかりやすく解説!」で紹介している。
遺言書がないなら分割協議
遺言書がない、もしくは遺言書があってもまとまらない場合は相続人全員で遺産分割協議にて話し合うこととなる。
まとまらなければ法定相続分
もし遺産分割協議でまとまらなければ、法定相続分を参考に分けることになる。
法律で定められているのでなかなか割合が決まらない際にすぐ適用させることもできて、計算もわかりやすくなる。
最終手段は裁判所での調停や審判
もしも法定相続分での分配が納得できない相続人がいた場合は、裁判所にて調停や審判を行ってもらうこともある。
ただし調停や審判まで至るケースは珍しいものの、十分発生し得る。
管轄の家庭裁判所にて行われることとなるため、弁護士などに相談した方がスムーズに進められるだろう。
弁護士への相談については「相続で弁護士は必要?相談すべき人・ケース別費用をまとめて解説!」で紹介している。
法定相続分早見表
以下が法定相続分の早見表だ。
ポイント
配偶者は必ず含める
1番戸籍上近い配偶者を含めて割合決定することになっている。
また最も割合においても優先されるため、配偶者の有無は割合決定の際に重要なポイントとなるのだ。
ちなみに配偶者の遺産の取り分は以下のように決められている。
配偶者 | 配偶者以外(1人あたり) | |
---|---|---|
配偶者と子供 | 2分の1 | 2分の1 × 人数 |
配偶者と両親 | 3分の2 | 3分の1 × 人数 |
配偶者と兄弟姉妹 | 4分の3 | 4分の1 × 人数 |
同順位は均等に分ける
相続では故人に近い関係性から優先順位が決められている。
関係と順位をまとめた表は以下の通りだ。
順位 | 関係 |
---|---|
第1順位 | 子供 |
第2順位 | 両親 |
第3順位 | 兄弟姉妹 |
もし子供が2人いれば、子供全体が相続した分を2人で等分することになる。
順位の決め方はこちらの記事で紹介している。
代襲相続は元の順位を受け継ぐ
亡くなった方の子供が既に先に亡くなっていた場合、その子供にあたる孫に代襲相続が発生して代襲相続人として相続する。
代襲相続時、元の相続人の代わりになるので、元の相続人の取り分をそのまま受け取ることになっている。
順位 | 関係 |
---|---|
第1順位 | 子供の代わりに孫が代襲相続 |
第2順位 | 両親の代わりに祖父母が代襲相続 |
第3順位 | 兄弟姉妹の代わりに甥姪が代襲相続 |
例:故人の子供も既になくなっていた場合、孫がいれば代襲相続人となる。
もし配偶者と代襲相続人(孫)が2人いる場合、代襲相続人は子供として扱うので配偶者と子供2人の場合の相続と同様になる
つまり、配偶者2分の1・代襲相続人4分の1・代襲相続人4分の1となるのだ。
説明図を用意する
割合決定の場合は相続人がどの順位に位置するかを確認しなければならない。
親族関係が複雑な場合、わかりやすくするなら個人の関係図を描いた説明図を作成するのも手だ。
この説明図は不動産を相続した際にも必要となるため作っておいて損はないだろう。
詳しい作り方は「相続関係説明図をかんたん作成!使用目的・書き方・法定相続一覧図との違いを解説」で紹介している。
具体例
いくつかのパターンに分けて紹介していく。
配偶者と子供
配偶者は必ず含め、同じ優先順位なら平等に分けていく。
配偶者は2分の1と決められているので、子供の数に応じて以下のように取り分が代わっていく。
子供のみ
「同じ順位の人がいると均等に割る」を使って計算していく。
例:妻が既に他界しており、息子と娘が受け取った
配偶者がいないので、子供1人なら全額受け取る。
2人、3人と増えると子供の人数に応じて以下のように等分していく。
配偶者と両親
両親が相続するケースは「子供と孫がいない」「子供が放棄している」ものが考えられる。
例:子供がおらず妻も他界していたので、息子の父が受け取った
配偶者は3分の2と決められているので、親1人は3分の1、親2人ならそれぞれ6分の1となる。
配偶者と兄弟姉妹
配偶者は4分の3と決められているので、兄弟1人は4分の1、兄弟2人ならそれぞれ8分の1となる。
子供と配偶者がいるのに兄弟が相続するようなケースは、負債が高額な可能性もあるため、あらかじめ兄弟が相続するケースについておさらいしておくのが良いだろう。
ちなみに兄弟姉妹が相続するケースについては「兄弟姉妹の相続放棄は1人でも可能?遺産はどうなる?放棄するケースと注意点」で紹介している。
特殊なケース
「相続人以外へ遺産を渡したい」という遺言が見つかった
もし遺言で「相続人以外の人に渡す」などと指定していた場合は、法定相続人にあたる相続者たちは自分たちが最低限もらえる金額を計算して、残ったものを遺言で指定された人が受け継ぐ。
最低限もらえる割合は以下の通りだ。
遺言で指定された人は、これらを引いた割合がもらえる。
配偶者と子供2人、遺言で指定された人の場合は配偶者4分の1、子供8分の1、子供8分の1、遺言で指定された人2分の1となる。
- 自分を支えてくれた親友にも感謝を込めて財産を渡したい
- 愛人や隠し子へ優先的に渡したい
- 妻と絶縁状態で籍だけいれている、少しでも渡す金額を少なくしてその分自分の弟の額を上げたい
詳しくは「相続で知っておくべき遺留分とは?対象範囲・計算例・法定相続分との違いをわかりやすく解説!」で紹介している。
養子がいる
養子がいた場合も変わらず本来の自分の子供と同様に計算していく。
なお最大2人までが対象となるので注意をしておこう。
また配偶者がいれば、配偶者の分を引いてから計算する。
例:配偶者と実子2人、養子1人のケース → 配偶者で2分の1、1人あたり3分の1(子供3人)
なお養子縁組は税金対策としても採用されている。
- 人数を増やせるので、相続税が0円になってかからない水準を上げることができる
- 残す者がいなくて国の財産になるのを阻止できる
借金があった
借金などの負債もプラスの場合の相続と同様に計算する。つまり、プラスの財産を多くもらっている人はマイナスの財産の量も多くなる。
例:借金1,000万円を妻と子供2人で相続した場合、配偶者は半分、子供は4分の1ずつ相続
借金があると返済義務が課されてしまうので、生前に負債やマイナスの財産を確認しておくことを忘れないようにしたい。
マイナスの負債とされるのは「相続時に税金がかかる財産とかからない財産は?一覧表で相続財産の計算方法を解説!」で紹介している。
- 父の遺産を相続した。無事に納税なども終わり資産運用に回そうと考えていた矢先、見覚えのない返済催促書が…
- これくらいの負債なら遺産から返せると思っていたが、実は家のローンが残っていたので自分の貯金を切り崩して返している
ちなみに限定承認などの方法をとって、財産で支払える範囲内に限定して相続することも可能だ。
その場合は、限定承認なども視野に入れておくと良いだろう。
相続放棄した
相続したくないという方がいた場合、その人は除外して計算しなければならない。
例:配偶者と子供2人(うち1人放棄)の場合は、配偶者は2分の1、子供は1人のみで2分の1
放棄することによりメリットやデメリットは発生するものの、「相続争いをしたくない」「借金の返済義務から逃れたい」という方は検討するのも良いだろう。
- 身内と折り合いがつかず、あまり話し合いたくない
- お金のことでギクシャクするのはイヤ
- 自分は実家を出て東京におり、身内は鹿児島なので何度も帰省するのはちょっと…
相続放棄については「相続放棄とは?基本情報をわかりやすく解説!自分は検討すべきか確認しよう」で紹介している。
まとめ
法定相続分は配偶者が優先され、残った相続人で等分していくような形で計算していく。
ただどれぐらいの割合になるかは、話し合いでの決定がメインとなる。
なかなか話し合いで決まらない場合は法定相続分を使って相続割合を決めることで、法律で目安が決められているため納得しやすく話し合い時間も短縮できる。
相続割合が決まれば相続税が判明するので、納付を10ヶ月以内に行わなければならない。
もし大体の相続金額と相続人が判明している場合、相続税を計算しておくと良いだろう。
早見表は「相続税の計算表を2パターン紹介!自分の税金額をラクラク計算」で紹介している。
期限も設けられている手続きも多いため、各期限の有無や相続全体の流れを確認しておくと申告漏れを防げる。