本記事では相続税計算をいくつかのケースでシミュレーションしている。
自分にはいくら税金がかかるのか、似たようなケースを参照しながら確認したい方向けの内容となっている。
具体的に相続税の計算方法を解説していくので、相続税について詳しく知りたい方は「相続税の計算は自分でできる!手順をわかりやすく5STEPで解説!計算例付き」をご覧いただきたい。
基本の計算手順
まずは基本の計算手順から確認していく。
本記事ではこの手順に沿って計算していくので「今やっている計算は何を求めているのか?」をチェックしておこう。
手順は大きく6つに分けて、進められる。
STEP1:遺産総額(相続財産)を求める → 全体を求めていこう
STEP2:法定相続人の人数を確定する → 計算に関わる人を決定しよう
STEP3:課税金額を計算 → 控除を除いた額を求めよう
STEP4:各相続人が受け取る相続金額と税額を計算 → それぞれの額を一旦固定しよう
STEP5:家族全体の相続税が決定 → 全体にまとめよう
STEP6:各相続人が納める税金額が決定 → 本当の割合で分けていこう
STEP1:遺産総額(相続財産)を割り出す
遺産総額とはプラスの財産から借金などのマイナス財産を引いて算出したものを指す。
貯金や不動産や死亡保険金などを合計し、借金や葬式費用を引いたものが相続税の対象財産だ。
また仏具や墓地は相続税の対象とならないので、これらは省いて計算していく。
課税対象に含まれてない財産の解説や詳しい計算方法は「相続時に税金がかかる財産とかからない財産は?一覧表で相続財産の計算方法を解説!」で紹介している。
STEP2:法定相続人の人数を割り出す
遺産を相続する権利がある、法定相続人の数を割り出していく。
配偶者は必ず法定相続人になるため、配偶者以外の子供や両親などを対象に考えていくことになる。
子供や両親、兄弟は以下の相続順位が定められている。
- 子供:第1順位
- 両親:第2順位
- 兄弟姉妹:第3順位
子供が最優先で法定相続人になり、上の順位の者がいなければ第2、第3の順位の人間が法定相続人に選ばれる。
詳しい順位の決め方は「相続順位はどうやって決める?当てはめるだけでわかるケース別の具体例」で紹介している。
もしも「親戚が多い」「連絡が取れず行方不明者がいる」など関係が複雑化している場合は、専門家の手を借りる場面も出てくる可能性もある。
- 相続手続きが初めてで自分で調べるのも不安
- 繫忙期なので時間がないから、全部やっておいてほしい
- 取り分が少なくなりそうだけど、そもそも自分は対象者なのか知りたい
- 手続き途中で身内が「やっぱりこの取り分はおかしい」と主張してきた
その場合、亡くなった人との相続関係を視覚化するため、相続人説明図を作成しておくのも手だ。
STEP3:課税金額を計算
遺産総額から基礎控除を引くと、課税金額が割り出せる。
基礎控除は「3,000万円 + (600万円 × 法定相続人数)」で計算できる。
ちなみに相続税の税率については、STEP3の金額が高くなればなるほど税率は上がっていく。
基礎控除について詳しい解説は「相続税の基礎控除はいくら?自分が申告対象か一目で分かる一覧表付き!」で紹介している。
STEP4:仮で相続税額を決める
課税金額が決まれば、仮の相続税額を計算する。
課税金額を法定相続分で割った後、以下の表を使って相続税率をかければ相続人ごとの相続金額が分かる。
上記の表の詳しい使い方は「相続税の税率早見表!贈与税とどちらがお得?計算方法を一挙解説【2022年最新版】」で解説している。
計算を簡素化したい場合はぜひご覧いただきたい。
なおここで登場する「法定相続分」とは、民法で定められている各々が受け取る相続割合の目安だ。
以下は配偶者がいる時の取り分の目安をまとめた表だ。
配偶者 / 子供 | 配偶者 / 両親 | 配偶者 / 兄弟姉妹 |
---|---|---|
2分の1 / 2分の1 | 3分の2 / 3分の1 | 4分の3 / 4分の1 |
相続税計算時以外に、話し合いでなかなか相続割合が決まらない時に法定相続分で相続することもあるので理解しておくことをおすすめする。
- それぞれが取り分を譲らず、話し合いが平行線になっているタイミングで採用
- 納付期限が迫っており、とりあえず分けておいて後から正しく算出できる制度を利用する時に採用
法定相続分については「自分の相続割合は?パターン別・ケース別に計算方法をご紹介!」で詳しく説明している。
STEP5:家族全体の納税する金額が分かる
STEP4で計算した各相続人の相続税額を合計し、家族全体の相続税を計算する。
ここで一度合算することにより、計算上の差異をなくすことができる。
STEP6:それぞれが納める税金額が決定
家族全体の相続税額に、話し合いなどで決定した相続割合をかければ各相続人の相続税額が算出される。
最後に、相続税額から控除や特例を引けば完了だ。
控除については、配偶者や未成年を対象にしたものなど様々な種類が存在している。
詳しくは「相続の税金対策は何をすべき?下げる方法20選!相続後も活用可」で税金対策として紹介しているので、ぜひ有効活用して節税対策を行っていただきたい。
配偶者と子供2人のシミュレーション
条件は以下の通りとする。
- 話し合いで配偶者60%、長男30%、次男10%相続する
- 預貯金は5,000万円
- 不動産は1億円
- 負債は3,000万円
- 長男25歳、次男21歳
- 配偶者控除は全額適用
STEP1:遺産総額(相続財産)を求める
預貯金は5,000万円、不動産は1億円、負債は3,000万円なので、遺産総額は1億2,000万円となる。
STEP2:法定相続人の人数を確定する
配偶者と長男、次男なので、法定相続人は3人となる。
STEP3:課税金額を計算
基礎控除額を計算し、4,800万円(3,000万円 + (600万円 × 3人))と分かる。
遺産総額は1億2,000万円、基礎控除額は4,800万円なので課税金額は7,200万円である。
STEP4:仮で相続税額を決める
最初に法定相続分(配偶者は2分の1、子供は2分の1)で割って、配偶者は3,600万円、長男と次男は合わせて3,600万円(1人あたり1,800万円)を相続したと仮定する。
相続税を先ほど記載した表から計算すると、配偶者の仮の相続金額3,600万円は控除額200万円、税率20%と分かる。
つまり、配偶者の相続税額は680万円となる。
同じように子供の仮の相続金額1,800万円は控除額50万円、税率15%と分かる。
つまり、子供1人の相続税額は267.75万円となる。
STEP5:家族全体の相続税が決定
STEP4で計算した各相続人の相続税額を合計した1,215.5万円が、STEP3にかかる相続金額(家族が支払う税金額)と分かる。
STEP6:それぞれが納める税金額が決定
話し合いで配偶者60%、長男30%、次男10%相続することに決まっている。STEP5で求めたものと掛け合わせて納税額を算出していく。
支払う相続税はそれぞれ、配偶者729.3万円、長男は364.65万円、次男は121.55万円
最後に配偶者控除を適用して、配偶者のみ相続税は0円になる。
支払う相続税は、配偶者0円、長男364.65万円、次男121.55万円である。
子供2人のみのシミュレーション
子供のみの場合をシミュレーションしていく。
条件は以下の通りとする。
- 話し合いで長女50%、次女50%相続することになっている
- 預貯金は3,000万円
- 株式は5,000万円
- 借入金は0円
- 長女は20歳以上、次女は9歳とする
- 未成年者控除は次女のみ適用
STEP1:遺産総額(相続財産)を求める
預貯金は3,000万円、株式は5,000万円、借入金は0円なので、合計すると8,000万円となる。
STEP2:法定相続人の人数を確定する
長女と次女なので、法定相続人は2人となる。
STEP3:課税金額を計算
基礎控除額を計算し、4,200万円と分かる。
STEP1とSTEP2の数値を使って課税金額を求めると、3,800万円とわかる。
STEP4:仮で相続税額を決める
最初に法定相続分(子供は等分するため2分の1)で割っていく。
相続税を先ほど記載した表から計算していく。
つまり、それぞれの金額は277.5万円となる。
STEP5:家族全体の相続税が決定
STEP4で計算した各相続人の相続税額を合計すると、555万円がSTEP3にかかる相続金額(家族が支払う税金額)と分かる。
STEP6:それぞれが納める税金額が決定
話し合いにて長女50%、次女50%で相続することに決まっているので、STEP5の金額にかければ支払う相続税がそれぞれ分かる。
支払う相続税はそれぞれ、長女277.5万円、次女277.5万円となる。
最後に未成年者控除を次女にのみ適用する。
未成年者控除は「(18歳 – 年齢)× 10万円」を控除できるので、次女のみ187.5万円に相続税を減額できる。
支払う相続税は、長女277.5万円、次女187.5万円である。
特殊なケースのシミュレーション
遺言で孫が相続することになった場合
条件は以下の通りとする。
- 孫へ相続したいという遺言が見つかった
- 配偶者50%、子供25%、孫25%の相続が決まっている
- 預貯金は1,000万円
- 不動産は1億円
- 負債は2,000万円
- 孫は20歳
- 子供は45歳
- 配偶者控除を全額適用
ここでは簡潔にまとめて紹介していく。
- 遺産を求める
遺産総額は1,000万円 + 1億円 – 2,000万円 = 9,000万円 - 人数を確定する
法定相続人数は配偶者と子供、孫なので3人
基礎控除額は3,000万円 + (600万円 × 3人) = 4,800万円 - 課税金額を計算
課税金額は9,000万円 – 4,800万円 = 4,200万円 - 各相続人が受け取る相続金額と税額を計算
法定相続分(配偶者は2分の1と子供と孫はそれぞれ4分の1)で割る
配偶者2,100万円、子供1,050万円、孫1,050万円と仮定できる
配偶者の相続税額は(2,100万円 – 50万円)× 15% = 307.5万円
子供と孫はそれぞれ(1,050万円 – 50万円)× 15% = 150万円 - 家族全体の相続税が決定
家族全体の相続税は、307.5万円 + 150万円 +150万円 = 607.5万円 - それぞれが納める税金額が決定
配偶者50%相続なので、実際の相続税は303.75万円
子供と孫はそれぞれ25%相続なので、実際の相続税はそれぞれ151.875万円
最後に配偶者控除を適用し、1億6,000万円以下になるので配偶者の相続税は0円となる。
また孫のみ遺言で相続することになっているので2割加算を行い、151.875万円 × 1.2 ₌ 182.25万円となる。
つまり、支払う相続税は配偶者0円、子供151.875万円、孫182.25万円である。
ちなみに「孫へ全額与える」などの遺言は認められない。
必ず法定相続人にあたる配偶者などは一定額以上受け取れる権利を有している。
例:祖父が孫へ全額渡したいと書面で残しておいた → 全額孫ではなく、祖母や娘ももらえる
詳しくは「相続で知っておくべき遺留分とは?対象範囲・計算例・法定相続分との違いをわかりやすく解説!」で紹介している。
また特殊なケースとしては兄弟の相続人となるケースもあるだろう。
計算方法は大きく変化することはないが、兄弟の相続人となると相続を放棄することも多くなるので、今回は除外している。
相続を放棄する理由としては、手間の増加や借金の発生などが挙げられる。
詳しくは「兄弟姉妹の相続放棄は1人でも可能?遺産はどうなる?放棄するケースと注意点」で解説している。
まとめ
今回紹介してきたように、自分で相続税額を計算していくことは可能だ。
ただ遺言などで計算が複雑化しそうな場合、専門家に頼ることも視野に入れておこう。
もし相談する場合は、相続関係で揉めそうなら弁護士、手続き代行なら司法書士など専門家ごとの得意分野で相談先を決めるのが良い。
例えば弁護士に相談するケースはこちらで紹介している。
もし、法定相続人が増減しそうな場合は「相続税率は最大55%!軽減ポイントは二次相続対策の有無!」の相続人数ごとにかかる税金額を確認する方が早いだろう。
大まかに税金額がわかった場合は、相続手続きスケジュールをおさらいしていつまでに納付するのか確認しておくことをおすすめする。