相続税が発生しそうな場合、正確に計算することでその後の手続きが楽になる。
本記事では、相続税の計算方法について具体例を7つ挙げて、わかりやすく解説していく。
計算もシンプルな基礎編と複雑な応用編に分けて紹介している。
様々なケースについて相続税を確認したい人や正しく計算できるかチェックしたい人はぜひご活用いただきたい。
もし法定相続人数と遺産総額がわかっている場合はこちらの早見表を使うと便利だ。
計算方法
必要な情報
相続税の計算時に必要な情報は以下の通りだ。
情報 | 確認方法 |
---|---|
遺産総額 | 金融機関や信用組合、通帳や土地の権利証などから調べる ※詳しい調査方法はこちらから(※1) |
法定相続人数 | 配偶者、子供、両親、兄弟姉妹を確認して決定する ※詳しい順位決定方法はこちらから(※2) |
基礎控除 | 法定相続人数 × 600万円 + 3,000万円で計算する ※詳しい計算方法はこちらから(※3) |
遺言の有無 | 日本公証人連合会に確認してもらい、自筆の遺言書などは自力で探す |
その他の控除 | 自分がどの控除の対象者となるか確認する ※詳しい控除の種類はこちらから(※4) |
手順
細かな計算手順は以下の通りだ。
- 資産を全額調査
→そのままの意味で、換金性のあるものはプラスマイナス問わず全て対象 - 相続対象外の財産を引く
→墓地や仏具などは外してOK - 相続人数を決定
→今回の計算に関わる人が分かる - 基礎控除額を計算
→STEP3を使って差し引ける分をチェック - 課税対象か(申請が必要か)どうか判断
→0円やマイナスになれば、STEP6~STEP10は不要 - 法定相続分(仮の取り分)でそれぞれの相続金額を計算
→一旦それぞれの金額を固定する - それぞれの相続税を求める
→STEP6で相続したケースの納税額が分かる - STEP5で計算した金額にかかる相続税額を求める
→対象資産にかかる家族全員の合算した納税額が分かる - 実際の取り分でそれぞれにかかる相続税を計算
→これが最終決定金額になる - 必要に応じて特例を適用、なければSTEP9のまま
基本的にこの計算方法に当てはめていくことで相続税が算出できる。
計算手順について詳しくは「相続税の計算シミュレーション!具体例付きでわかりやすく解説!」で解説している。
留意点
墓地などは対象外の財産となるので、STEP2で除外することになる。
例えば貯金、不動産、絵画、墓地が残されていた場合、墓地を引いた額が遺産総額となる。
またSTEP7で使う相続税率は以下の表を活用して計算する。
詳しい使い方は「相続税の税率早見表!贈与税とどちらがお得?計算方法を一挙解説【2022年最新版】」で確認できる。
仮の取り分で計算する操作が必要な理由
STEP6の段階で法定相続分(仮の取り分)で割らずに、最初から実際の相続分で割れば良いのではないかと思う人も多いだろう。
しかしこの場合、金額が高額になればなるほど、相続税額が変わり負担する相続税額が不平等になってしまう。
そのため、必ず法定相続分で一度割るというSTEP6の操作が必要になるのだ。
法定相続分については「自分の相続割合は?パターン別・ケース別に計算方法をご紹介!」での詳しく説明している。
STEP6を省いて誤った金額を申告してしまうと罰金や刑事罰もあるので、正しく計算することを心がけていただきたい。
具体例(基礎編)
ここでは配偶者や子供など比較的シンプルな例を計算していく。
共通の前提条件として、実際の取り分を法定相続分とし、配偶者控除は全額適用する。
配偶者と子供2人
配偶者と子供2人が相続するケースを計算していこう。
STEP1:資産を全額調査
貯金5,000万円、不動産6,000万円、墓地100万円、住宅ローン1,000万円があることが分かった。
STEP2:相続対象外の財産を引く
墓地は相続対象外なので除外して、その他3つを合算していく。
貯金5,000万円 + 不動産6,000万円 – 住宅ローン1,000万円 = 遺産総額1億円
STEP3:相続人数を決定
前提条件のままなので、人数を合計すれば良い。
配偶者1人 + 子供2人 = 法定相続人3人
STEP4:基礎控除額を計算
STEP3で算出した人数を用いて計算する。
定額控除額3,000万円 + 法定相続人分の控除(600万円 × 3人)= 基礎控除額4、800万円
STEP5:課税対象かどうか判断
ここで0円やマイナスになるようであれば、相続税は発生せずに0円となる。
その場合はSTEP6~STEP10を省略して終了する。
1億円 ー 4、800万円 = 課税金額5,200万円(課税対象)
STEP6:法定相続分(仮の取り分)でそれぞれの相続金額を計算
法定相続分では、配偶者が2分の1、子供2人で2分の1(子供は等分)と決まっている。
そのため、STEP5で求めた金額を仮に分けていく。
配偶者:5,200万円 × 2分の1 = 2,600万円(仮)
子供:5,200万円 × 2分の1 × 2分の1 = 1,300万円(仮)
子供:5,200万円 × 2分の1 × 2分の1 = 1,300万円(仮)
なお借金の場合でも同じようにわけていくことになる。
STEP7:それぞれの相続税を求める
表からそれぞれの仮の税金額を算出していく。
配偶者:(2,600万円 – 控除額50万円 ) × 税率15% = 382.5万円(仮)
子供:(1,300万円 – 控除額50万円 ) × 税率15% =187.5万円(仮)
子供:(1,300万円- 控除額50万円 ) × 税率15% = 187.5万円(仮)
STEP8:STEP5にかかる相続税額を求める
STEP7を合算することで家族全員が払う税金額が分かる。
配偶者382.5万円 + 子供187.5万円 + 子供187.5万円 = 全体の相続税757.5万円
つまり、課税金額5,200万円には相続税757.5万円がかかる。
STEP9:実際の取り分でそれぞれにかかる相続税を計算
STEP8で求められた金額をわけていく。
配偶者:757.5万円 × 2分の1 = 本当の税金額378.7万円
子供:757.5万円 × 2分の1 × 2分の1 = 本当の税金額189.3万円
子供:757.5万円 × 2分の1 × 2分の1 = 本当の税金額189.3万円
控除がない人は、このSTEP9の金額を納税することになる。
STEP10:必要に応じて特例を適用
控除が適用できる人はSTEP9の金額を軽減していこう。
配偶者:378.7万円 – 配偶者控除1億6,000万円 = 納税額0円
子供:189.37万円 – 控除0円 = 納税額189.3万円
子供:189.37万円 – 控除0円 = 納税額189.3万円
このように控除が適用できれば、非常に税金面で有利になる。
子供2人
次に配偶者がおらず、子供2人だけのケースを計算していく。
STEP1:資産を全額調査
貯金5,000万円、不動産6,000万円、墓地100万円、住宅ローン1,000万円があることが分かった。
STEP2:相続対象外の財産を引く
墓地は相続対象外なので除外して、その他3つを合算していく。
貯金5,000万円 + 不動産6,000万円 – 住宅ローン1,000万円 = 遺産総額1億円
STEP3:相続人数を決定
前提条件のままなので、人数を合計すれば良い。
子供2人 = 法定相続人2人
STEP4:基礎控除額を計算
STEP3で算出した人数を用いて計算する。
定額控除額3,000万円 + 法定相続人分の控除(600万円 × 2人)= 基礎控除額4、200万円
STEP5:課税対象かどうか判断
ここで0円やマイナスになるようであれば、相続税は発生せずに0円となる。
その場合はSTEP6~STEP10を省略して終了する。
1億円 ー 4、200万円 = 課税金額5,800万円(課税対象)
STEP6:法定相続分(仮の取り分)でそれぞれの相続金額を計算
法定相続分では、子供2人は等分と決まっている。
そのため、STEP5で求めた金額を仮に分けていく。
子供:5,800万円 × 2分の1 × 2分の1 = 2,900万円(仮)
子供:5,800万円 × 2分の1 × 2分の1 = 2,900万円(仮)
STEP7:それぞれの相続税を求める
子供:(2,900万円 – 控除額50万円 ) × 税率15% = 427.5万円(仮)
子供:(2,900万円 – 控除額50万円 ) × 税率15% = 427.5万円(仮)
STEP8:STEP5にかかる相続税額を求める
STEP7を合算することで家族全員が払う税金額が分かる。
子供427.5万円 + 子供427.5万円 = 全体の相続税855万円
つまり、課税金額5,800万円には相続税855万円がかかる。
STEP9:実際の取り分でそれぞれにかかる相続税を計算
STEP8で求められた金額をわけていく。
子供:855万円 × 2分の1 = 本当の税金額427.5万円
子供:855万円 × 2分の1 = 本当の税金額427.5万円
控除がない人は、このSTEP9の金額を納税することになる。
STEP10:必要に応じて特例を適用
控除が適用できる人がいないので、STEP9のままとなる。
子供:427.5万円 – 控除0円 = 納税額427.5万円
子供:427.5万円 – 控除0円 = 納税額427.5万円
配偶者と親1人(子供なし)
子供がおらず配偶者と故人の父がいた場合を計算していく。
STEP1:資産を全額調査
貯金5,000万円、不動産6,000万円、墓地100万円、住宅ローン1,000万円があることが分かった。
STEP2:相続対象外の財産を引く
墓地は相続対象外なので除外。
貯金5,000万円 + 不動産6,000万円 – 住宅ローン1,000万円 = 遺産総額1億円
STEP3:相続人数を決定
配偶者1人 + 親1人 = 法定相続人2人
STEP4:基礎控除額を計算
定額控除額3,000万円 + 法定相続人分の控除(600万円 × 2人)= 基礎控除額4、200万円
STEP5:課税対象かどうか判断
1億円 ー 4、200万円 = 課税金額5,800万円(課税対象)
STEP6:法定相続分(仮の取り分)でそれぞれの相続金額を計算
法定相続分では、配偶者は3分の2、親は3分の1と決まっている。
配偶者:5,800万円 × 3分の2 = 3,866万円(仮)
親:5,800万円 × 3分の1 = 1,933万円(仮)
STEP7:それぞれの相続税を求める
配偶者:(3,866万円 – 控除額200万円 ) × 税率20% = 733.2万円(仮)
親:(1,933万円 – 控除額50万円 ) × 税率15% = 282.4万円(仮)
STEP8:STEP5にかかる相続税額を求める
配偶者733.2万円 + 親282.4万円 = 全体の相続税1015.6万円
つまり、課税金額5,800万円には相続税1015.6万円がかかる。
STEP9:実際の取り分でそれぞれにかかる相続税を計算
配偶者:1015.6万円 × 3分の2 = 本当の税金額677万円
親:1015.6万円 × 3分の1 = 本当の税金額338.5万円
STEP10:必要に応じて特例を適用
配偶者:677万円 – 配偶者控除1億6,000万円 = 納税額0円
親:338.5万円 – 控除0円 = 納税額338.5万円
配偶者と兄弟2人(子供、両親おらず)
子供と両親がおらず、配偶者と故人の兄弟が相続するケースを計算していく。
STEP1:資産を全額調査
貯金5,000万円、不動産6,000万円、墓地100万円、住宅ローン1,000万円があることが分かった。
STEP2:相続対象外の財産を引く
墓地は相続対象外なので除外。
貯金5,000万円 + 不動産6,000万円 – 住宅ローン1,000万円 = 遺産総額1億円
STEP3:相続人数を決定
配偶者1人 + 兄弟2人 = 法定相続人3人
STEP4:基礎控除額を計算
定額控除額3,000万円 + 法定相続人分の控除(600万円 × 3人)= 基礎控除額4、800万円
STEP5:課税対象かどうか判断
1億円 ー 4、800万円 = 課税金額5,200万円(課税対象)
STEP6:法定相続分(仮の取り分)でそれぞれの相続金額を計算
法定相続分では、配偶者が4分の3、兄弟2人で4分の1(兄弟は等分)と決まっている。
配偶者:5,200万円 × 4分の3 = 3,900万円(仮)
兄:5,200万円 × 4分の1 × 2分の1 = 650万円(仮)
弟:5,200万円 × 4分の1 × 2分の1 = 650万円(仮)
STEP7:それぞれの相続税を求める
配偶者:(3,900万円 – 控除額200万円 ) × 税率20% =740万円(仮)
兄:(650万円 – 控除額なし ) × 税率10% = 65万円(仮)
弟:(650万円 – 控除額なし ) × 税率10% = 65万円(仮)
STEP8:STEP5にかかる相続税額を求める
配偶者740万円 + 兄65万円 + 弟65万円 = 全体の相続税870万円
つまり、課税金額5,200万円には相続税870万円がかかる。
STEP9:実際の取り分でそれぞれにかかる相続税を計算
配偶者:870万円 × 4分の3 = 本当の税金額652.5万円
兄:870万円 × 4分の1 × 2分の1 = 本当の税金額108.7万円
弟:870万円 × 4分の1 × 2分の1 = 本当の税金額108.7万円
STEP10:必要に応じて特例を適用
配偶者:652.5万円 – 配偶者控除1億6,000万円 = 納税額0円
兄:(108.7万円 ×1.2) – 控除0円 = 納税額130.5万円
弟:(108.7万円 ×1.2) – 控除0円 = 納税額130.5万円
兄弟姉妹のみ2割加算される点に注意していただきたい。
兄弟姉妹が相続人となるケースは「兄弟姉妹の相続放棄は1人でも可能?遺産はどうなる?放棄するケースと注意点」で紹介している。
もし相続人の内、放棄した人がいればその人は除いて計算していく。
具体例(応用編)
ここからはより複雑なケースの相続税の計算方法を紹介していく。
基礎編に当てはまらなかった場合は応用編などを用いて計算することになる。
遺言で法定相続人以外が対象となった場合
例えば配偶者と子供が法定相続人で、遺言で孫も相続することになった場合は、STEP9の実際の相続税額を求めたタイミングで、孫にのみ「1.2」をかける処理を行う。
ただ、全額孫へ渡したいなどの相続は適用できない。
配偶者や子供は最低限受け取れる権利を主張することができる。
詳しくは「相続で知っておくべき遺留分とは?対象範囲・計算例・法定相続分との違いをわかりやすく解説!」で紹介している。
生命保険がある場合
受け取る保険金額は控除額を引いてから計算しなければならない。
例えば、貯金3,000万円と生命保険金5,000万円を配偶者と子供で受け取る場合は以下のように遺産総額を計算していく。
生命保険金5,000万円 – (2人× 500万円) = 4,000万円
貯金3,000万円 + 4,000万円 = 遺産総額7,000万円
土地がある場合
国税庁によって定められている土地の基準価格である路線価が定められていれば路線価方式、定められていなければ倍率方式を採用する。
以下の2種類どちらかの方式で、土地の評価額を計算する。
不動産相続にかかる税金について詳しくは「不動産相続したら何をすればいい?スケジュール、手続き、税金について」で紹介している。
ちなみに土地を相続した場合、名義を変更する
この不動産登記は義務化される予定があるため、必ず登記手続きを進めることをおすすめする。
まとめ
相続税の計算方法は一度覚えればスムーズに計算することができる。
最初のうちは、仮の取り分で割る作業を忘れやすいので注意深く計算していこう。
今回計算してきた例は法定相続分に則って計算したものである。
そのため、実際の話し合いで決めた相続割合によって、税額も変化することに注意していただきたい。
ただ相続において、親族関係が悪かったり、1人の相続人が権利を主張してなかなか相続割合が決定しないことも少なくない。
もし遺言関係でトラブルが起こりそうな場合は専門家へ相談するのもおすすめだ。
「相続で弁護士は必要?相談すべき人・ケース別費用をまとめて解説!」で解説している相談を検討すべきケースに当てはまっていれば、弁護士に相談して良いだろう。