遺産を相続する際に相続税が発生するのは、知っている人も多いのではないだろうか。
しかし「どのような財産が相続税の課税対象になるのか」について正しく理解している人は少ない。
そこで今回は、税金が発生する財産の種類と遺産額の計算方法を紹介していく。
遺産額を計算できれば正確な相続税を算出できるため、相続を検討している方はぜひ参考にしていただきたい。
そもそも相続税とは
相続と税金
そもそも相続とは、亡くなった人(被相続人)の財産を受け継ぐ行為を指す。
その財産を相続した際に発生する税金のことを相続税と呼ぶ。
税率は10%〜55%と幅広く、課税金額に応じて変わっていく「累進課税方式」を採用している。
詳しい相続税の税率と計算方法は、それぞれ「相続税の税率について」と「相続税の計算方法は?」で紹介している。
相続税の対象者
相続税の対象者は、相続権利を持つ相続人だ。
この相続人は「配偶者と子供」「両親のみ」など亡くなった人との続柄によって優先順位と割合が決まっている。
詳しい順位の決め方と割合はそれぞれ「相続順位の付け方」と「相続割合の決定方法計算」で紹介している。
相続税の対象財産
相続税がかかる遺産は、遺産総額(相続財産)と呼ばれている。
亡くなった人の「プラスの財産」と「マイナスの財産」を含めた全財産が対象となる。
相続税を計算するときは、上記の式で遺産総額を算出してから税率を出すことになっている。
相続時の税金がかかる財産は
相続税の対象となる財産は「プラスの財産」とプラスとして計算する「みなし財産」、「マイナスの財産」の3つに分けられる。
ここではそれぞれの項目ごとに各財産の具体例と計算方法を紹介していく。
基本的に財産は、換金した際にいくらになるかという「評価額」で表される。
プラス財産
プラス財産とはその名の通り、価値のある財産を総称する言葉である。
換金できるもの、と覚えておくと覚えやすい。
金融資産
預貯金や有価証券を指す。
株式や積立投資、公社債などの資産が該当する。
これらは亡くなった人の口座残高を確認することで簡単に調べられる。
- 必要書類(亡くなった人の死亡記載がある戸籍謄本、申請する人の戸籍謄本、印鑑証明)を用意する
- 口座を持つ金融機関へ問い合わせる
不動産
土地や建物、田畑などが含まれる。
土地の権利証や固定資産税の支払い通知書などが確認できれば、亡くなった人が不動産を所有しているかどうか判断できる。
どうしても分からなければ、管轄の法務局にて調査可能だ。
不動産の評価金額の計算方法は、2通りある。
- 国税庁によって評価額が設定されている土地は「路線価方式」
- 設定されていなければ「倍率方式」
それぞれの計算式と手順は以下の通りだ。
- 国税庁のサイトで、該当住所に数値(路線価)を確認する
- 土地の面積は、毎年払う固定資産税の「納税通知書」で確認する
- 補正率は、国税庁サイトの「奥行価格補正率表」から算出する
- 国税庁のサイトで、該当住所に数値(路線価)が記載されていないことを確認する
- 評価額は、毎年固定資産税の納税通知書に同封されている「課税明細書」を確認
- 評価倍率は、国税庁のサイトで公開されている評価倍率表を見て確認
ちなみに不動産を相続した場合、名義変更(登記)など特別な手続きが必要になるので注意していただきたい。
不動産相続の流れは「不動産相続したら何をすればいい?」で確認できる。
さらに2024年には登記の義務化が適用されるので、登記について基礎知識と流れを確認した上で手続きを行うことをおすすめする。
その他の資産
金融資産や不動産以外に、以下も資産とされる。
- 車、バイク
- 金、プラチナ、宝石などの貴金属類
- ゴルフ会員権
- 絵画、骨董品などの芸術品
みなし財産
みなし財産とは、相続人がいずれ受け取ることになる財産を指す。
そのため、現時点で発生していないことから「みなし」という言葉が使われている。
みなし財産として、以下が挙げられる。
- 生命保険金
- 死亡退職金
- 債務免除
- 3年以内の生前贈与
ちなみに生命保険金と死亡退職金はそれぞれ「相続人数 × 500万円」まで非課税とされているため、節税対策にも活用されやすい。
例えば、死亡退職金2,000万円を2人の相続人が受け取った場合は、2,000万円 − (2 × 500万円) = 1,000万円が相続税の課税対象となる。
死亡日から遡って3年以内に贈与された財産もみなし財産となる。
もし贈与時に贈与税を支払っていれば、相続発生時には控除される。
ちなみに最大2,500万円の贈与税を非課税にできる「相続時精算課税制度」を使った場合も、みなし財産の対象となるので注意をしていただきたい。
相続時精算課税制度については「相続時精算課税制度とは?メリットデメリット・使用するとどれくらいお得?」、手続きの注意点を「相続時精算課税制度の必要書類を簡単チェック!手続き方法、期限も」で紹介している。
マイナス財産
マイナス財産は、相続時点で返済義務が発生する財産のことだ。
相続した割合に応じて、借金なども全員で分割して受け継ぐことになる。
マイナス財産が大きくて返済できない場合は、相続放棄を行って返済義務を発生させない対処も必要だ。
相続放棄については「相続放棄とは?基本情報をわかりやすく解説!自分は検討すべきか確認しよう」で詳しく紹介している。
借入金
借金や買掛金などはマイナス財産として引き継がれる。
主な借入金として、以下が挙げられる。
- 個人間の借金
- 住宅ローン
- 自動車ローン
- カードローン
- キャッシング
- 買掛金
- まず、通帳や請求書、借用書、督促状を探して借り入れ先を明らかにする
- 郵便物などを探しても見つからない場合、信用情報機関へ問い合わせて借入金の有無を確認
- 過払金の有無を確認
税金
亡くなった人が事業を営んでいた場合、亡くなった年の所得税や住民税を支払わなければならない。
さらに、不動産を保有していた場合は固定資産税も支払うことになる。
期限までに亡くなった人の代わりに確定申告を行い、管轄の税務署へ支払わなければならない。
詳しい相続税に関する期限は「相続税の基礎控除の改正ポイント4つ!税金はいくら変わる?2022年以降はどうなる?」で紹介している。
葬式費用
葬式にかかった費用は遺産総額から差し引けることになっている。
- 火葬、埋葬、納骨費用
- お通夜、葬式費用
- お寺への読経費用
これらを差し引くことにより、遺産総額がマイナスされ、支払う相続税も下げることができる。
遺産総額計算方法
算出は以下の式を使って計算する。
例えば、夫が亡くなり配偶者が以下の資産を相続する場合、遺産総額は1,500万円になる。
預貯金1,000万円
自宅3,500万円
生命保険金500万円
住宅ローン2,000万円
1,000万円 + 3,500万円 +(500万円 – 1 × 500万円) – 2,000万円 = 1,500万円(遺産総額)
注意点
非課税の財産もある
遺産総額として計算しない非課税の財産もある。
- 仏壇、仏具
- 墓地
- 損害賠償金
- 国や公益法人への寄付
- 公共事業用の財産
そのため遺産総額を計算する際、非課税財産は省いて計算しなければならない。
預貯金1,000万円
宝石50万円
葬式費用60万円
仏壇購入費用30万円
寄付100万円
1,000万円 + 50万円 – 60万円 = 90万円(遺産総額)
※仏壇購入費用30万円と寄付100万円は省いて計算
相続税を抑えるために寄付や仏壇の購入などを行う節税方法もある。
詳しくは、「相続の税金対策は何をすべき?下げる方法20選!相続後も活用可」で相続税の税金対策方法をご覧いただきたい。
気づきにくい財産もある
預貯金などわかりやすい財産もあれば、みなし財産など後から気づくような財産も多い。
特に最近話題の仮想通貨など、ネット上に貯蓄している資産も見逃しやすい。
タンス貯金や内緒で隠されていた借金なども含め、計算漏れがないか注意深く確認する必要がある。
遺産総額すべてに税金は発生しない
遺産総額すべてに相続税がかかるわけではない。
厳密に言うと、相続税は遺産総額から基礎控除などを引いて残った「課税金額」に発生する。
もしも遺産総額が基礎控除額以下なら、遺産総額がプラスでも非課税になるのだ。
基礎控除の計算方法と課税金額の相続税の計算方法は、それぞれ以下で紹介している。
基礎控除については「相続税の基礎控除はいくら?自分が申告対象か一目で分かる一覧表付き!」
早見表は「相続税の税率早見表!贈与税とどちらがお得?計算方法を一挙解説【2022年最新版】」
より詳しく計算していきたい方は活用していただきたい。
基礎控除の改正内容についてはこちらからご覧いただけるようになっている。
まとめ
相続税は、遺産を受け継ぐ相続人にかかってくる。
遺産総額はプラスとみなし財産からマイナス財産を引いた金額で算出することができる。
「相続税 = 高い」というイメージがつきがちではあるが、控除金額次第では相続税0円の場合も十分あり得る。
相続の発生が判明した場合、まずは遺産総額を把握しておくとスムーズに相続税の計算に進める。
把握後、具体的に個別の相続税額を計算してみてはいかがだろうか。
具体的な相続税の計算方法は「相続税の計算シミュレーション!具体例付きでわかりやすく解説!」
相続税早見表は「相続税の計算表を2パターン紹介!自分の税金額をラクラク計算」