相続税は、基礎控除を用いて課税される金額を計算していくことになっている。
基礎控除について知ることで、自分が相続税の課税対象かどうか判断できるのだ。
本記事では基礎控除の基本知識と具体的な計算方法について解説していく。
- 基礎控除とは何か
- どのように計算するのか
- 一覧表で確認したい
上記のような疑問を解消できる内容となっている。
ぜひ、本記事を参考にしながら正しい相続税額を算出できるようにしていただきたい。
基礎控除について
相続税は遺産総額(相続財産)に課税されるわけではなく、遺産総額から基礎控除を引いた額に対して課税される。
基礎控除を引く理由は、税負担を減らして残された人の生活を守るためである。
相続税が多すぎると、亡くなった人(被相続人)が残してくれた遺産を受け継ぐため、莫大な税金を支払うことになる。
そこで一律で基礎控除を引くことにより、ある一定金額までは遺産を非課税で受け継ぐことができる。
簡単に納める相続税の算出方法を表すと以下のようになる。
つまり「遺産総額が少ない」もしくは「基礎控除額が大きい」ほど相続税がかからずに遺産を相続できる可能性が高い。
税率早見表は「相続税の税率早見表!贈与税とどちらがお得?計算方法を一挙解説【2022年最新版】」で紹介している。
もしも相続税に関して基礎知識をお持ちある方は、「相続税の計算シミュレーション!具体例付きでわかりやすく解説!」を確認しておくと良いだろう。
法定相続人とは
法定相続人数が基礎控除を計算する際に必要になる。
法定相続人とは相続する権利を有する相続人を指している。
相続順位が法律で決められており、この順位が高い人から法定相続人が決められる。
- 配偶者
- 子供(第1順位)
- 孫(第1順位)
- 両親(第2順位)
- 祖父母(第2順位)
- 兄弟姉妹(第3順位)
- 姪甥(第3順位)
亡くなった人と血縁関係の近い人が優先的に法定相続人となり、相続権を獲得するようになっている。
詳しい相続順位の決め方は「相続順位はどうやって決める?当てはめるだけでわかるケース別の具体例」で解説している。
仮に血縁関係が複雑であった場合、専門家に依頼して法定相続人を調査してもらうこともあるだろう。
その際には「相続関係説明図をかんたん作成!使用目的・書き方・法定相続一覧図との違いを解説」を見て相続関係を説明する図を作成しておくと便利だ。
基礎控除額の計算方法
基礎控除額を算出できる計算式は以下の通りだ。
遺産を相続する法定相続人数が1人の時は3,600万円、2人の時は4,200万円と基礎控除額が増加していく。
つまり遺産総額が基礎控除額と同じ、もしくは少ない場合の相続税は非課税になるのだ。
ちなみに相続税が発生しなければ申告の必要はない。
遺産総額の算出方法は「相続時に税金がかかる財産とかからない財産は?一覧表で相続財産の計算方法を解説!」で解説している。
いくら相続税対象の遺産があるのか、計算したい方はご覧いただきたい。
控除額の表
人数ごとの基礎控除額の変化をまとめた表は以下の通りだ。
つまり、基礎控除額が増えれば、申告不要水準も上がっていくのだ。
計算例
婚姻関係のある配偶者がいれば、配偶者は必ず法定相続人となる。
ここでは基礎控除額の計算例を、いくつかのケースに分けて紹介していく。
配偶者あり子供2人
4,500万円を相続する場合、遺産総額は4,500万円、法定相続人は3名なので課税金額は0円になる。
配偶者なし子供2人のみ
4,500万円を相続する場合、遺産総額は4,500万円、法定相続人は2名なので課税金額は300万円になる。
基礎控除額を上げる方法
養子を取ることで、基礎控除額を上げることも可能だ。
以下の制限はあるものの、養子は実子と同様に亡くなった人の子供として法定相続人となる。
例えば、配偶者しかおらずに3,600万円までしか非課税にできない人も、2人養子縁組を行うことで4,800万円まで非課税にできる。
他にも、基礎控除額が下がるケースでも後述している「放棄」という手段で相続権利を他の人に渡すことで、次の人数が多ければ控除額を増やせる。
- 実子が1人いる、養子縁組で養子を1人迎え入れる → プラス600万円
- 未婚で両親も他界してしまい、養子縁組で2人迎え入れた→ プラス1,200万円
- 父親1人で3人兄弟がいる、父親が放棄して3人へ権利が回ってきた → プラス1,800万円
このように人数が増えれば、1人につき600万円が基礎控除額にプラスされる。
相続税を計算してみて、予想以上に高額となった場合は養子縁組や放棄を視野にいれてみるのも手であろう。
具体的な相続税の計算方法は「相続税の計算方法は?具体例に沿ってかんたん計算!不動産や生命保険ありの場合も」、相続税早見表は「相続税の計算表を2パターン紹介!自分の税金額をラクラク計算」で紹介している。
基礎控除額が下がるケース
基礎控除額が減るケースもあるので注意をしておこう。
相続権を辞退(放棄)した人がいる
相続放棄をした人は始めから権利を持っていなかった人として、計算から除外することになる。
例:母と息子2人のうち、母のみ放棄すると、人数は3人から2人へと変化する
先程の額が上がる例とは反対に法定相続人が1人減ると、基礎控除額は600万円分減額してしまうケースもある。
- 娘と息子がいる、娘だけ放棄して息子1人で受け継ぐことになった → マイナス600万円
- 3人兄弟のうち2人が放棄した→ マイナス1,200万円
相続争いに巻き込まれたくない人や遠方で手続きしたくない人、疎遠な兄弟姉妹などは自分から相続権を放棄できる。
また自分が辞退するか迷っている場合はこちらを読むことをおすすめする。
法改正
法改正によって、基礎控除額が減額してしまうケースもある。実際に平成27年の法改正では、法定相続人1人あたりの控除額が1,000万円から600万円に減少した。
基礎控除の法改正については「相続税の基礎控除の改正ポイント4つ!税金はいくら変わる?2022年以降はどうなる?」で詳しく解説している。
他の相続に関する控除
基礎控除以外に、税金額を抑えられる特例や控除が用意されている。ここでは相続時に使える控除の種類を確認していこう。
贈与税額控除
生前に資産を贈与された際、贈与税を既に納付していれば、相続税発生時に贈与税分を控除できる制度だ。
この制度によって、税金を二重に納めてしまうのを防ぐことができる。
適用例:亡くなる1年前に1,000万円の贈与を受けて贈与税を支払い、相続時に5,000万円相続した
3年以内の贈与や高額な一括贈与ができる相続時精算課税制度を使って贈与したものが対象となる。
相続時精算課税制度については「相続時精算課税制度とは?メリットデメリット・使用するとどれくらいお得?」で解説している。
配偶者控除
配偶者のみ最大1億6,000万円まで非課税にできる控除だ。
残された配偶者の相続税負担を減らすことができるため、活用頻度が高い。
ただし「相続税を非課税にしたい」といってむやみやたらと配偶者控除を使用するのはおすすめできない。
理由としては、配偶者が亡くなった後に相続する子供の税負担が大きくなるからである。
詳しくは「相続税率は最大55%!軽減ポイントは二次相続対策の有無!」で紹介している。
「相続税を軽減したいが子供の将来の税負担額も減らしたい」という方は、配偶者控除の適用前に確認していただきたい。
相次相続控除
相次いで相続が発生したときに相続税を軽減できる制度だ。
遺産相続発生後、10年以内に新たな相続が発生すると、前回の相続税額の一部を控除することができる。
例:祖父が亡くなって父が相続し、5年後に父が亡くなって息子が相続した
上記の場合、父は祖父の財産を受け継ぎ、息子は祖父と父の財産を受け継いでいる。
同じ財産が一部受け渡されている状態であるので、相続税を同額かけてしまうと二重負担となってしまう。
これを防げる控除が相次相続控除というわけである。
紹介した控除以外にも、生前にできる対策や保険を使った特例などが数多く存在している。
相続時にできる税金対策は「相続の税金対策は何をすべき?下げる方法20選!相続後も活用可」でまとめて紹介しているので、税負担を抑えたい人は参考にしていただきたい。
まとめ
基礎控除は、法定相続人1人の時の控除額である3,600万円を1つの基準に考えていくのが良い。
法定相続人の数に応じて控除額が変化し、人数が増えると相続税が0円となる金額の上限も上がっていく。
ただ、遺産総額が基礎控除を超えていても控除によって非課税になるケースもある。
相続税を計算して発生しそうな場合は控除を有効活用できないか、専門家に相談してみても良いだろう。
また相続を辞退した人がいる場合、基礎控除額は減少してしまうので注意が必要だ。
兄弟姉妹が相続を辞退した時はこちら、自分が辞退するか迷っている場合はこちらを読むことをおすすめする。
ちなみに基礎控除の計算を活用して相続税を算出する計算手順は「相続税の計算シミュレーション!具体例付きでわかりやすく解説!」で紹介している。
基礎控除が計算できたら、ぜひ相続税額も合わせて計算していただきたい。