不動産を相続した際に行う登記であるが、義務化される予定なのはご存知であろうか。
改正により登記に関する法律は変更されているため、時期と内容を確認しておくことで正しく登記手続きが行える。
今回は相続登記の義務化について、改正法の内容と変更点をわかりやすく紹介していく。
いつ義務化されるのか、注意点はあるのか、などの疑問を解消できる内容となっている。
相続登記義務化について
そもそも登記とは
不動産を相続した際に名義変更を指す。
名義変更を行っていないと売却する際に複雑化するなど不都合が多く発生するため、義務化されていなくても現時点でも行うことが推奨されている。
登記について詳しくは「相続登記とは?メリットデメリット・費用・しないとどうなるか詳しく解説!」で解説している。
登記のメリットデメリット、登記決定方法を知りたい人は参考にしていただきたい。
現段階ではまだ義務化されていない
相続登記が義務化されるタイミングは、2024年4月1日以降だ。
2021年4月21日に義務化についての改正法が可決されており、現段階(2022年9月)では相続登記の義務化が記されたものが「これから施行するので備えて欲しい」と公布された状態である。
2022年時点では義務ではないため、登記しないことによる法的なペナルティは発生しない。
ただ今後施行されれば、義務化によってペナルティが発生するため注意をしておこう。
具体的なペナルティは後述している。
改正法が設定された理由
設定理由としては、所有者が不明な土地を減らすためである。
現在、所有者不明の土地は一定数存在している。
総務省統計局が行った「平成30年住宅土地統計調査」によると、2018年時点で全国の空き家は848万9,000戸存在し、全体の13.6%を占めている。
グラフのように空き家の数は年々増加しており、最近では空き家問題として所有者不明な土地によるトラブルが多発している。
空き家問題の主な内容は以下の通りだ。
- 不法投棄、放火などの犯罪
- 倒壊リスク
- 再開発や土地を有効活用できない
- 景観の悪化
具体例としては以下が挙げられる。
- 使わなくなった家を放置していたら、ネズミなどが住み着いて家中を荒らしてしまった。隣人から悪臭が酷いと苦情が来た
- 庭の木を植えたままにしておいたら、他の敷地内まで伸びきってしまい怒られた
- 台風で母屋が壊れ、飛んでいった破片の一部で子供がケガしてしまったので医療費を負担することになった
- 入居者がいないのをいいことに、不法侵入していた犯罪者と鉢合わせてしまった
さらに所有者不明な土地が増えると、固定資産税の納付金額も減少してしまう。
そんな問題を解決するために義務化が決定したのだ。
実際、税収を増加させるために、平成27年には相続税の基礎控除金額の改正がなされている。
基礎控除の改正については「相続税の基礎控除の改正ポイント4つ!税金はいくら変わる?2022年以降はどうなる?」で紹介している。
義務化の詳細
相続登記義務化が決定された改正法の詳細を、大きく3つに分けて解説していく。
3年以内の期限が設けられた
相続登記の期限が3年以内に設けられたことが1番大きな変更点だろう。
以前までは期限がなかったため、登記をせずに亡くなった人の名義のまま放置も可能ではあった。
しかし今回から「相続が発生してから3年以内」と期限が設けられているので、速やかな対処が必要となる。
案外、猶予はない
3年以内と聞くと猶予があるように思えるかもしれない。
登記関連は後回しでいいや、と思っていても案外他の手続きに追われて期限に間に合わない可能性もあるのだ。
例えば、相続発生時に財産に課税される相続税の申告は、10ヵ月以内と決められている。
それまでに相続人同士で不動産を含めた自分の取り分を決定する必要があるので、相続から半年までは話し合いや各種手続きで登記手続きを進めにくい場合が多い。
相続税については「相続税の計算は自分でできる!手順をわかりやすく5STEPで解説!計算例付き」で紹介している。
そうなると10ヶ月目以降〜3年で手続きを行うことになるが、相続トラブルが発生するとトラブルへの対処も必要となる。
さらに遺留分や埋葬料の申請など10ヶ月目以降もいくつも他の手続きが発生する。
そのため、まず相続全般の期限を確認しておき、いつのタイミングで手続きするのが適切かどうか把握しておくのが良いだろう。
所有権の放棄
今回の改正によって、民法上定められていなかった土地所有権の放棄が可能となった。
相続したくない土地を、国の管理物にすることができる。
ただし管理負担金を支払う必要があるので注意しておきたい。
手続きの簡略化
登記に期限が設けられたことで、間に合わない人の救済措置も簡略化された。
- 登記している名義人が亡くなった
- 自分が相続人である
上記2つを土地を相続した人が裁判所へ申告すれば登記義務を果たしたと判断されるのだ。
これを相続人申告登記と呼び、登記へのハードルも下がっている。
他にも、登記抹消手続きを簡略化する制度が創設されている。
対象者
不動産を相続した人である。
相続財産の中に土地や建物など不動産があった場合、相続対象者で集まって話し合ったり法定相続分(法律で定められた相続目安)に基づいたりして不動産を相続する人を決める。
話し合いの結果、土地を複数人で分けて相続することもあるだろう。
その場合は1つの土地に1人行えば良いのではなく、話し合いで相続することになった人全員が対象者となる。
法定相続分について詳しくは「自分の相続割合は?パターン別・ケース別に計算方法をご紹介!」で説明している。
もし登記義務を負う可能性があるかを判断するなら、そもそも自分が話し合いに参加する対象者かどうかを確認しておくことをおすすめする。
対象者は相続順位に応じて決定する。
詳しくは「相続順位はどうやって決める?当てはめるだけでわかるケース別の具体例」で説明している。
意外と知らないワナ・注意点
今回の改正の注意点として4つを押さえておく必要がある。
過去の相続も対象
1番注意しておいていただきたいのが、今回の改正前に相続した不動産も対象となることだ。どれくらい前などの制限はないので、1つでも相続していれば問答無用で申告対象となる。
期限は、施行される2024年4月1日から3年間以内だ。
例えば2020年に相続した未登記のものは、2024年4月1日に登記義務が発生し2027年3月31日までに登記を行わなければならない。
そのため過去に不動産を相続した可能性がある人は、施行までに自分が登記しなければならない不動産を保有しているのか、などを確認しておくことを忘れないようにしたい。
罰金は正当な理由なしの場合
登記を3年以内に間に合わなかった場合は、10万円以下の罰金が科される。
「相続したのを知っていたが面倒なのでわざと登記しなかった」など正当な理由がない場合が対象だ。
住所氏名の変更登記も義務化
案外見落としがちなポイントとして、相続時でなくても義務が発生している点が挙げられる。
不動産の名義人となっている人の名前や住所が変わった場合の変更登記も義務化される。
こちらに関しては2年以内という期限がつき、5万円以下の罰金が発生するので注意していただきたい。
登記した際の住所氏名は基本的に公開されるようになっているが、DV被害などで公開しなくない人もいるだろう。
そのように特別な事情があるケースは、秘匿されるような配慮も検討されている。
生前贈与も罰金対象
今回改正されたのは相続発生後だけではなく、名義人が生きているときに不動産を渡す生前贈与も登記が必要になる。
生前贈与も違反すると5万円以下の罰金の対象となるため注意していただきたい。
さらに「自宅を渡したい」と相続時精算課税制度などを使って一括贈与するなどの制度を利用した場合も、生前贈与の対象だ。
本制度について詳しくは「相続時精算課税制度とは?メリットデメリット・使用するとどれくらいお得?」、手続き方法等はこちらで紹介している。
よくある質問
改正についてわかりやすく教えてほしい
相続した不動産に対して過去のものは2024年4月1日から3年以内に、2024年4月1日以降に相続したものは相続を3年以内に登記することが定められている。
3年以上経過してしまうと10万円以下の罰金が科される可能性もあるので速やかに行わなければならない。
固定資産税はいくらになる?
登記後には毎年固定資産税を支払うことになるが、固定資産税は変動が大きいので一概にはいえない。
ただ戸建て住宅の場合は10万円程度が相場で、マンションなどは比較的少し安くなる傾向がある。
登記を行うか、そもそも相続を放棄するかどうかの目安にしても良いだろう。
固定資産税など不動産相続全般でかかる税金額については「不動産相続したら何をすればいい?スケジュール、手続き、税金について」で紹介している。
2022年以降の今後の展望
2024年4月1日の施行後について、相続登記の届出の際に発生する登録免許税について今後軽減措置が検討されているので、税金面に多少改善の余地がある。
ただ相続後に登記する際には登記費用だけでなく、相続税も発生する。
この相続税は贈与税との一体化も検討されており、相続税を合わせて計算すると逆に税負担額が上がる可能性もある。
そこで今後は登記にかかる税金面を確認しながら、相続税などを総合的にシミュレーションしながら税金対策を講じていく必要がある。
相続税関連の税金対策方法は「相続の税金対策は何をすべき?下げる方法20選!相続後も活用可」、シミュレーションは「相続税の計算シミュレーション!具体例付きでわかりやすく解説!」で紹介している。
まとめ
相続登記義務化は、2024年4月1日からスタートする。
過去に登記していない不動産や、既に登記している人の名前や住所変更も対象となる。
登記は3年以内、住所変更などは2年以内の期限が設けられているので早めに手続きを行うことが大切だ。
まずは2024年までに、既に相続している不動産がないか確認すべきだ。
もし登記をしていない不動産を持っていた場合は、速やかに手続きを行おう。
マイナンバーカードなどを保有している人ならオンラインでも申請できるので、手軽に登記手続きが可能だ。
相続名義人となっている、もしくはなる予定がある方は一度登記手続きについて確認しておくことをおすすめする。
具体的な手続きについては「相続登記の必要書類を一挙解説!手続き方法・期限・費用をチェックして正しい申請を」で確認いただきたい。