相続時精算課税制度という制度をご存知だろうか。
不動産などの高額な資産を一括贈与する際に活用できる特例で、税金対策で使われることも多い。
本記事ではそんな相続時精算課税制度について、メリットやデメリット、活用を検討すべき人について紹介していく。
- 対象者と条件は?
- どれくらいお得になる?
- 自分が使うべきか知りたい
上記のような方で相続時精算課税制度を活用しようか迷っている方は、ぜひご覧いただきたい。
相続時精算課税制度とは
相続時精算課税制度は、財産を贈与した時に発生する贈与税を1人あたり2,500万円まで非課税できる制度だ。
その後相続時に後払いで相続税と一緒に税金を支払うような仕組みとなっている。
つまり簡単に言えば「相続時に遺産と一緒に合計して課税するから、贈与税は一定額まで免除する」という内容だ。
最大で2,500万円まで非課税である上に2,500万円に達するまでなら何回も贈与できるため、資金援助に使いやすいという魅力がある。
対象者、条件
相続時精算課税制度の対象者は、直系卑属(子や孫)と直系尊属(親や祖父母)が組み合わさった関係でないと対象とならない。
- 贈与者(財産を贈与する人)が直系尊属(親や祖父母)
- 受贈者(財産を受け取る人)が直系卑属(子や孫)
例えば親子、祖父母と孫のみ該当する。
ここで注意していただきたいのは、相続人の対象とは異なる点だ。
相続し得る人は兄弟姉妹も含まれているが、本制度を活用できるのは直系血族のみなので兄弟姉妹は活用できない。
相続対象となる人について詳しい決め方は「相続順位はどうやって決める?当てはめるだけでわかるケース別の具体例」で紹介している。
年齢制限あり
制度が活用できる年齢には以下の制限が設けられている。
そのため、20歳未満の孫や子供へ贈与したり、60歳未満の親から贈与したりすることができない。
2,500万円までは非課税にできるが、これを超えたら20%の贈与税がかかってしまう。
85歳の祖父が4,000万円の財産を25歳の孫に贈与したい場合、4,000万円 − 2,500万円 = 1,500万円が贈与税の対象となる。
支払う贈与税は1,500万円 × 20% = 300万円となる。
ただしこれでは相続時に二重課税になってしまうので、贈与税として支払った金額は相続時に計算する際に控除される。
つまり「2,500万円までは税金0円で、もし贈与税がかかっても相続税計算時には軽減する」と配慮されているのである。
メリット
メリットとしては以下の3つが主に挙げられる。
- 将来の納税額が抑えられる
- 相続争いを避けられる
- 税率が一律20%
将来の納税額が抑えられる
相続時精算課税制度を使って資産価値が上がる不動産を贈与することで、将来の税金額を抑えられる。
土地など不動産は制度を利用して贈与したタイミングでの評価額が計算される。
そして今後その評価額に応じて納税していくことになっている。
そのため、土地開発で土地の評価額が上がっていっても制度を活用して贈与したタイミングでの税金額で納めることになるので、納税額を抑えることが可能になる。
ただ相続時精算課税制度は後払い方式の制度なので、税金を支払わなくて良いというわけではない。
相続財産が発生したときに「相続時精算課税制度で受け取った財産 + 財産額」を合算して相続税が計算されるので、一定金額以上になると相続税が発生するので注意していただきたい。
相続税についてあらかじめ確認しておきたい場合は以下の記事をみておくことをおすすめする。
いくらから相続税が発生するかについては「相続税の計算は自分でできる!手順をわかりやすく5STEPで解説!計算例付き」
遺産総額と相続人がわかっている場合の相続税早見表は「相続税の計算表を2パターン紹介!自分の税金額をラクラク計算」
具体的な相続税シュミレーションは「相続税の計算シミュレーション!具体例付きでわかりやすく解説!」
相続争いを避けられる
相続時精算課税制度を活用した時点では生きている内の生前贈与となるため、相続争いが起こりにくくなる。
相続と違って本人の意思で贈与させたことが分かるので「本人が良いのなら」と相続人となり得る親戚も納得しやすい。
相続争いが起こると弁護士が必要になることも考えられる。
相続が話し合いで解決しない場合は、家庭裁判所での調停や審判を行って相続争いに決着をつけることもある。
その際に依頼する弁護士費用も数十万円程度は必要になるので、必要資金を抑えられるという点でもメリットといえよう。
トラブルごとの弁護士費用の相場は「相続で弁護士は必要?相談すべき人・ケース別費用をまとめて解説!」で紹介している。
税率一律20%
相続時精算課税制度は2,500万円を超えた段階では一律20%の税金が課税される。
通常、贈与税は課税金額が大きくなるほど税率が上がる累進課税だ。
そのため制度を活用しないで贈与してしまうと最大55%の贈与税が発生してしまう。
相続時精算課税制度は高額贈与を行う前提の制度なので、もし超えたとしても税率が変動しないというのは安心だ。
贈与税の税率については「相続税の税率早見表!贈与税とどちらがお得?計算方法を一挙解説【2022年最新版】」で紹介している。
贈与に関する制度である「暦年贈与制度」よりも税率が低いというメリットもある。
対して毎年110万円まで贈与税を非課税にできる「暦年贈与制度」では、110万円超過分の税金は30%から55%課税される。
例えば、4,000万円を贈与する場合にそれぞれの制度を利用すると発生する税金額は以下のようになる。
非課税額2,500万円
課税額1,500万円
贈与税額300万円(1,500万円 × 20%)
非課税額110万円
課税額3,900万円
贈与税額1,950万円(3,900万円 × 50%)
暦年贈与制度では超えた金額が600万円未満なら10%~20%の税率で済むが、600万円以上は30%以上かかってくるため、高額贈与には適さない。
その点、相続時精算課税制度は高額贈与を行うことで威力を発揮する。
もし超えたとしても変動しない税率は安心材料ではないだろうか。
デメリット
デメリットとしては以下の4つが挙げられる。
- 別の制度の方が負担下がる場合も
- 暦年贈与制度が使えなくなる
- 0円でも申告しなければならない
- 評価額が値下がりすると損をする
別の制度の方が負担下がる場合も
実は、別の制度を適用した方が負担を下げられる場合もある。
前述したように暦年贈与制度では、相続税はかからない。
そのため、将来の相続財産をコツコツと贈与を行って確実に減らしていくことも可能なのだ。
例えば、4,000万円を贈与する場合でも暦年贈与制度の渡し方を工夫すると税金額を抑えられる。
非課税額:2,500万円
課税額:1,500万円
贈与税額:300万円(1,500万円 × 20%)
非課税額:2,200万円(20年× 1年あたりの非課税額110万円)
課税額:1,800万円
相続税額:0円(1,800万円 < 3,600万円)
※最低額の3,600万円以上で課税対象とする。
つまり、金額や渡し方などに自身の財産によっては、暦年贈与の方が負担が下がる場合もあるのだ。
ちなみに税金対策は相続時精算課税制度や暦年贈与制度以外に、多種多様な方法が存在している。
適切な節税対策は個々人で異なるため、1つの制度に固執せず幅広く検討していってほしい。
詳しくは「相続の税金対策は何をすべき?下げる方法20選!相続後も活用可」で紹介している。
どの贈与・相続の方法が1番税負担額を下げられるかを確認しないと、制度を使うと逆に損するケースもあるので注意が必要だ。
0円でも申告しなければならない
本制度を使うと暦年贈与が適用できなくなる。
そのため、たとえ0円でも翌年以降も申告する義務が発生するのだ。
- 適用後、10万円を息子へ渡した(申告必要)
- 適用後、娘が親から借りていた100万円分の返済を免除してあげた(申告必要)
- 適用後、息子夫婦の住宅ローンを50万円ほど肩代わりしてあげた(申告必要)
申告は贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに行わなければならないので注意が必要だ。
なお暦年贈与制度を使えば110万円以下なら申請せずに済む。
申告方法などを専門家に相談したい場合は大きく6つの相談先が考えられる。
どの専門家へ相談すべきかは「相続相談先はどこにすべき?よくあるトラブル別一覧表と費用削減のポイント」紹介しているので、自分だけで申告するのに不安のある場合はご覧いただきたい。
評価額が下がると損をする
相続時精算課税制度で贈与された不動産は、贈与時点での評価額で税金額を計算していく。
そのため、もし土地の評価額が徐々に下がっていた場合、亡くなったタイミングで評価額が計算される相続が相対的に不動産の税金額が安くなる場合もあるのだ。
検討すべき人
メリットデメリットを踏まえて検討すべき人は以下の通りだ。
残す財産額が少ない
もし財産額が少なく相続税が0円になる場合は、本制度を活用すれば贈与税も相続税も発生させずに生前に贈与できる。
ちなみに相続税が0円になるケースは、以下の式が成り立つ場合だ。
つまり基礎控除が大きい、もしくは財産が少ない場合に0円となる。
基礎控除は3,600万円が1つの基準となるので、遺産総額を確認しておき3,600万円未満なら制度活用を視野に入れてみてはいかがだろうか。
基礎控除について詳しくは「相続税の基礎控除はいくら?自分が申告対象か一目で分かる一覧表付き!」で紹介している。
将来価値が上がりそうな財産がある
土地開発によって今後値上がりしていきそうな不動産がある場合は、活用したほうが将来の税金額を下げることになる。
メリットで紹介したように将来土地の金額が値上がりしても贈与時の地価で税金額が計算されるため、よりお得に保有し続けることができる。
まとまった金額を資金援助したい
子供の教育資金や留学費用やその他諸々でまとまった金額を援助したい場合も適している。
相続時精算課税制度は、高額かつ一気に渡せる強みがある制度だ。
相続時精算課税制度は2,500万円を超えた段階で一律20%の税金が課税されるが、暦年贈与だと最大55%まで課税される。
例えば2,500万円を制度を活用せずに渡してしまった場合、45%の税率が発生してしまう。
(2,500万円 -110万円) × 45% – 控除 = 800万円の税金発生
制度を使えば贈与税が0円となるので、適用させないと非常に勿体ない贈与をしてしまっているといえる。
賃貸不動産、アパート経営の引き継ぎ
賃貸などの家賃収入は贈与された人のものになるので、相続税として課税されない。
しかし相続時に故人に家賃収入があると故人の財産とみなされて課税されるので、相続税が上がってしまう。
そのため、相続税の節税対策にもなるのだ。
さらにマンション経営など事業継承を行う際にスムーズに行いやすくなるというメリットもある。
税負担を軽減できる「事業継承税制」などとも併用できる。
登記準備の猶予が欲しい人
登記自体が義務化されるので、生前贈与の方が余裕を持って登記手続きを進められる。
義務化については「相続登記の義務化で罰則対象拡大!いつから?意外と知らない罠5つも」で紹介している。
不動産を贈与、相続すると登記手続きが発生する。
さらに相続時には故人の葬式を執り行ったり、死亡届を提出したりなど様々な手続きも求められる。
そのため、生前に贈与できた方が他の相続関連の期限に追われることなく、登記のみに集中して手続きを行える。
相続全体のスケジュールには期限も多く、準備できる時間や焦らずに精神的な余裕を持ちたいという方にぴったりであろう。
期限がある手続きは「相続の期限つき手続きまとめ!間に合わないとどうなる?対処法も解説」で紹介している。
そもそも生前に贈与するか、相続時に財産を受け取るか迷っている方はどれくらい必須手続きがあるか確認して判断してみるのもおすすめだ。
まとめ
相続時精算課税制度は2,500万円までを一括贈与して贈与税を非課税にできるメリットがある一方で、暦年贈与制度と併用ができずに申告義務が発生する。
特に相続税0円かつ生前に資金援助をしたい場合は、本制度のメリットを大いに活かすことが可能だ。
活用すべきか否かはメリットとデメリットをよく考えて選択していただきたい。
もし活用する場合は、相続時精算課税制度の手続き方法と必要書類を確認しておくと良い。
活用をしない場合はこちらで不動産相続で発生する税金を確認して、相続発生に備えておくことをおすすめする。