「不動産を相続することになったが、何から手をつけたらいいのかわからない」と悩む人は多い。
実際、預貯金を相続するケースとは手続きも計算も異なってくるため、不動産単体で相続について確認しておかなければならない。
そこで今回は不動産相続の手続きや注意点、税金について紹介していく。
不動産を相続した際、1番最初に確認しておくべき内容となっている。
不動産を相続することになったら?
不動産を相続することになったら、まず不動産の名義を変更する登記を行わなければならない。
単独ならそのまま登記
不動産を相続した人が配偶者だけ、配偶者がおらず子供1人だけなどの場合はそのまま登記手続きへ移る。
ちなみにそもそも登記については「相続登記とは?メリットデメリット・費用・しないとどうなるか詳しく解説!」の記事で紹介している。
登記を行わなければならない理由や登記するメリット、デメリットを知りたい方はご覧いただきたい。
複数人いるなら話し合い
相続人が複数いる場合は話し合いを行って、誰がどれぐらい相続するのかを決めて登記を行う。
現在は登記自体は義務化されていないが、2024年4月1日以降は義務化されることが決まっているので、話し合いで複数相続する人が決まった場合は全員が登記しなければならない。
ちなみに義務化について何が変わるのか、登記をしなかった場合については「相続登記の義務化で罰則対象拡大!いつから?意外と知らない罠5つも」で紹介している。
相続対象になる人
不動産を相続する対象になり得る人は限定されており、故人の配偶者と血縁関係にある人が対象者だ。
配偶者
配偶者は必ず相続する権利を持っている。
これは民法890条で定められており、相続において最も優先されるようになっている。
ただし内縁の妻は法律上の婚姻関係であると認められないので相続者にはならない。
血縁関係にある人
血縁関係については、直系卑属と呼ばれる子供や孫、直径尊属と呼ばれる両親や祖父母、その他には兄弟姉妹や甥姪が該当する。
相続順位など優先的に相続人になる順位が決められており、子供、両親、兄弟姉妹の順で第1位〜第3位まで決められている。
詳しい順位の付け方は「相続順位はどうやって決める?当てはめるだけでわかるケース別の具体例」で紹介している。
複雑な家族構成で相続人がわからない場合や相続人対象者を具体的に知りたい場合はご覧いただきたい。
最も順位が低い兄弟姉妹が相続するケースは子供と親がいると少ないので、基本は故人の子供や親が相続人となることが多い。
兄弟姉妹に相続権が回ってくるケースは「兄弟姉妹の相続放棄は1人でも可能?遺産はどうなる?放棄するケースと注意点」で紹介している。
手続き
不動産相続手続きは大まかに、以下の手順で行う。
- 相続人や財産把握
- 遺産分割協議でどれぐらいをもらうか決める
- もめた場合は調停や裁判で決める
- 決定すれば名義変更を行う
- 賃借人がいる場合は変更通知
- 相続税の申告
相続人や不動産の現状把握
不動産を相続したとわかった場合、まず最初に故人の全財産を確認しておく必要がある。
財産は不動産だけではなく、借金などの負債も合わせて確認しなければならない。
財産の計算方法は「相続時に税金がかかる財産とかからない財産は?一覧表で相続財産の計算方法を解説!」で紹介している。
また相続しうる対象者が何人いるのかも確認しておかなければいけない。
もしあまりにも負債が多かった場合や、相続人同士の仲が悪く関わり合いたくない場合、不動産を相続したくない場合は相続権を放棄できる。
放棄手続きには3ヶ月の期限があるため、放棄するなら速やかに手続きを行おう。
放棄手続きについてはこちら
自分で行うほか専門家に依頼するかどうかの判断はこちら
相続手続きを行うメリットとデメリットはこちら
遺産分割協議
財産把握が把握でき、相続人の数が判明したら実際に誰がどれぐらい不動産相続をするのかを遺産分割協議と呼ばれる話し合いで決めていく。
この時に選べる分割方法としては大きく4つに分けられる。
- 現物分割:土地自体を相続分に区画分けして相続する方法
- 換価分割:不動産自体を売却して、現金化したものを分割する方法
- 代償分割:不動産を誰かのものにして、取得した人以外に相続分の現金を支払う方法
- 共有分割:不動産を相続人全体の共有の財産とする方法
基本的に共有分割以外の3つがスタンダードである。
共有分割は絶対してはならないと言われているほどで、共有分割は最終手段として取っておくのが良いだろう。
もし共有分割にしてしまうと不動産を売却したくなっても全員が承認しなければ売却ができないのだ。
相続手続きはやることが多く、とりあえず全員の共有財産にしてしまいがちだが、共有分割にすると不自由も多くなるので注意していただきたい。
遺言によっては遺留分を請求
もしも遺言があった場合、遺言も考慮して話し合いを行わなければならない。
ただ遺言は絶対ではなく、相続人全員が承諾すれば破棄することも可能だ。
ただ「長男に全財産を譲る」など他の相続人が受け取る権利を侵害するような遺言が見つかった場合、他の相続人は最低限もらえる金額である「遺留分」を請求できるので覚えておくと良い。
遺留分については「相続で知っておくべき遺留分とは?対象範囲・計算例・法定相続分との違いをわかりやすく解説!」で詳しく紹介している。
揉めてしまったら調停、審判
遺産分割協議で決まらなかった場合は、家庭裁判所へ仲介に入ってもらうことになる。
話し合いが複雑化してしまった場合は調停を行い、それでも決まらなかったら審判まで発展する。
ここまでくると弁護士など専門家の介入が必要になるので注意していただきたい。
相続に関する弁護士の介入範囲は「相続で弁護士は必要?相談すべき人・ケース別費用をまとめて解説!」で紹介している。
名義変更(相続登記)
遺産分割協議や調停、審判などで相続分が決まったら、不動産を相続した人は不動産の名義変更(登記)を行わなければならない。
相続登記は個人でも行えるので、あらかじめ手続きを確認しておくと安心だ。
なお必要書類は戸籍謄本などが必要になるため、準備に1ヵ月以上かかると仮定して早めに取り組みたい。
相続登記についての必要書類は「相続登記の必要書類を一挙解説!手続き方法・期限・費用をチェックして正しい申請を」で紹介している。
賃借人がいる場合は賃貸人の変更を通知
賃借人がいる場合、賃貸人が変わったことを通知しておかなければならない。
賃借人による変更の承諾は不必要なので、通知するのみで問題ない。
家賃の支払い先が変わるため「賃貸人が変わって家賃を支払う先がわからなかったので支払わなかった」などのトラブルを避けるためにも忘れずに行っておこう。
相続税の申告や納付
最後に、不動産を含めた相続財産にかかる相続税を申告して納付を行わなければならない。
相続税は10ヶ月の期限が決められているので、遅れないように注意してほしい。
相続税計算方法は以下をご覧いただきたい。
相続税がいくらかかるかのシミュレーションは「相続税の計算シミュレーション!具体例付きでわかりやすく解説!」
もし相続金額や相続人数がわかっている場合の早見表は「相続税の計算表を2パターン紹介!自分の税金額をラクラク計算」
申請時期
不動産を含めた相続税の申告と納税は10ヵ月以内と決められている。
また登記に関して現在は期限は設けられていないものの、2024年4月以降は3年以内に行わなければならないので注意が必要だ。
また相続権利を破棄する「相続放棄」や故人の財産で支払える負債までしか相続しない「限定承認」などを行うための期限は3ヶ月以内だ。
- 不動産相続したくない人:3ヶ月以内
- 相続税を支払う人:10ヵ月以内
- 登記する人:なし(いずれ3年以内)
早めに動くことを忘れないようにしたい。
その他相続関連で期限が設けられている手続きは「相続の期限つき手続きまとめ!間に合わないとどうなる?対処法も解説」で紹介している。
税金
相続自体に関わる税金は相続税、登録免許税、固定資産税、所得税の大きく4つに分けられる。
相続税
不動産を相続した際に発生する税金だ。
通常の預貯金は税率にかければ計算が可能であるが、土地の場合は少々計算が複雑化する。
路線価と呼ばれる国税庁が定めている地域や道路に該当しているか否かで評価額を計算して相続税率をかけて計算していく。
路線価が定められている場合は以下の計算方法で計算する。
路線価100Eと表示されている200㎡の不動産を相続した時、2,000万円の評価額となる。
路線価10万円(100 × 1,000) × 地積200㎡ (× 補正率)= 2,000万円
※E=1,000
これらを基礎控除から引いて税率をかけたものが相続税となる。
路線価が設定されていない場合は、建物固定資産税評価額と国税局長が地域ごとに定めた倍率をかけて計算する。
詳しい相続税計算方法は「相続税の計算方法は?具体例に沿ってかんたん計算!不動産や生命保険ありの場合も」で説明している。
登録免許税
不動産を登記したタイミングで発生する税金である。
市区町村で管理されている固定資産課税台帳に掲載されている価格で計算されるので、証明書を発行してもらい計算を行うことになる。
例えば1,000万円の土地であれば税金は4万円になる。
固定資産税
不動産に毎年かかってくる税金のことを指す。
毎年1月1日に発生し、不動産を放置している状態でも課税されるので注意が必要だ。
この固定資産税は土地の評価額に応じて変動し、毎年の支払いを避けたい場合に不動産を手放したり放棄を検討したりする人も少なくない。
相続放棄については「相続放棄とは?基本情報をわかりやすく解説!自分は検討すべきか確認しよう」をご覧いただきたい。
所得税
故人が生前に支払えなかった1年以内の所得税を代わりに支払わなければならない。
例えば、8月に亡くなってしまった場合、1~7月の所得税は未納状態となっている。
そのため、故人の代わりに確定申告を行う「準確定申告」のタイミングで支払う。
亡くなってから4ヶ月以内に納付しなければならないので、忘れないようにしたい。
誰に相談すればいい?
不動産を相続した場合の相談先は、税金関係なら税理士、不動産登記の代理申請なら司法書士など目的に合わせて専門家を選んでいく必要がある。
主な相談先として以下の6つが挙げられる。
- 税理士
- 弁護士
- 司法書士
- 行政書士
- 銀行
- 市役所
各専門家の違いは「相続相談先はどこにすべき?よくあるトラブル別一覧表と費用削減のポイント」で説明している。
相続全体を通してよくある「相続税が高くなりそう」というケースは控除制度を使って、専門家と一緒に税金対策を行うのもおすすめだ。
どのような控除があるかは「相続の税金対策は何をすべき?下げる方法20選!相続後も活用可」で紹介している。
注意点
税務調査があるので不備がないように
不動産を相続した際は、税務調査を見据えて相続税を正しく計算して納税しなければならない。
税務調査はいつ行われるかわからないが、基本的に1年~3年後に行われることが多いとされている。
納税額が間違っていた場合は、修正申告の手数料がかかったり、過少申告していた場合は納税額に加算されたりする可能性もある。
分割しにくく複雑化しやすいので慎重に
不動産の相続は現金と違って分割しにくく、複雑化しやすいので注意しなければならない。
特になんとなく共有分割にするケースには注意していただきたい。
相続が発生すると葬儀などでバタバタし、共有分割を安易に選びがちだが後々トラブルの元になってしまう。
生前からなるべく話し合い、不動産をどうするか決めておくとスムーズに進むであろう。
相続税の支払い分を確保しておく
相続税は基本的に現金での一括払いだ。
そのため、相続する予定がある方は支払い分をあらかじめ確保しておかなければならない。
土地の金額評価額に応じて相続税は変化する。
土地開発が進んでいる場所などは相続税も高額になる可能性もあるので注意していただきたい。
控除金額によっては、税金0円になる場合も
配偶者控除など特例を使えば1億6,000万円まで相続税を非課税にできる場合もある。
ただ配偶者控除を使う際には、子供の将来の納税額が上がる可能性があるデメリットもあるので注意して使わなければならない。
配偶者がいる相続は「一次相続」配偶者がなくなって子供が相続する相続を「二次相続」と呼んでいる。
相続ではこの「二次相続」を見据えた「一次相続」での相続方法を考えなければならない。
詳しくは「相続税率は最大55%!軽減ポイントは二次相続対策の有無!」で紹介している。
不動産相続で税金を抑えたいが、子供がいる場合の相続はどうするかを検討したい方はぜひご覧いただきたい。
まとめ
不動産を相続した際にはまず個人の遺産全額と相続人の人数を調べなければならない。
その後、誰がどのくらい相続するのかを4パターンの分割方法で分けていく。
相続者が決まれば不動産の名義変更(登記)を行うことを忘れないようにしたい。
登記には現時点で期限がないが相続税は相続発生から10ヵ月以内に支払わなければならないので注意していただきたい。
相続全体の流れも確認しつつ、不動産相続手続きを早めに進めていっていただきたい。
今回の不動産相続スケジュールを含めた相続全体のスケジュールの確認は「相続手続きスケジュール!期限と必要書類、手続き場所を簡単チェック!」から確認ができる。